美味しいビールとジンギスカンを心ゆくまで

サッポロビール園インタビュー:活性化する札幌・東区のシンボルとしてあり続けるために

北海道を代表する観光スポットとして、開業以来多くの人が訪れる「サッポロビール園」は、札幌市東区のシンボルとして、札幌市民をはじめ、観光客にも長い間親しまれています。築100年以上の趣のあるレンガの建物は、現在も多くの人たちを魅了し続けています。

今回は、地元札幌とともに歩まれた今日までの経緯や、サッポロビール園が担う地域の役割、街の魅力などのお話を伺うべく、サッポログループの株式会社新星苑の取締役経営戦略室長の瀬恒 健太(せつね けんた)さんにお話を伺いました。

インタビューに応える瀬恒 健太(せつね けんた)さん
インタビューに応える瀬恒 健太(せつね けんた)さん

操業を停止したビール工場の行方

――「サッポロビール園」は1966(昭和41)年にオープンし、2023(令和5)年現在まで57年の歴史がありますが、地元札幌とともに歩まれた今日までの経緯を教えてください。もともとここは製糖工場だったとか。

瀬恒さん そうですね。サッポロビール園を象徴する「開拓使館」というレンガの建物がありますけれども、これはもともと札幌製糖という砂糖の工場だったものです。そこが事業を止めるという事項がありました。時を同じくして、今のサッポロファクトリーにあった札幌麦酒の工場製造量が増えていました。そこで設備を拡張したいということで、札幌製糖工場から建物を譲り受けて、札幌麦酒の製麦所として再出発しました。

――製糖工場がそのままビールの製麦所なったのですか?

瀬恒さん 製麦(せいばく)とは、ビール材料の麦芽、いわゆる麦を発芽させることで、これがビールの材料になります。この麦を発芽させる工程を担うのが製麦所でした。製糖工場を譲り受けて、製麦所としてここでビールを作り始めたということです。

――それから時を経て1964(昭和39)年に、製麦所の操業を停止した、ということですが。製麦所だった場所をビール園として開業したのは、どのような経緯だったのでしょうか。

瀬恒さん 製麦所として使用していましたが、1890年(明治23に建築された建物で、かなり老朽化していました。そのような折、サッポロビールが現アリオ札幌の場所に札幌第2工場を竣工したこともあって、1964(昭和39)年に製麦所の操業を停止したんです。その際、当時のサッポロビールの経営陣が、この歴史あるレンガの建物を壊さないで保存しようということで、違う用途で残すことを決めました。その中で出てきた活用のひとつが“ビールの文化を伝える博物館”、そしてもうひとつはこのレンガの建物で、美味しい出来立てのサッポロビールを飲んでいただくという飲食店の展開です。

かつてのビール工場を保存、維持
かつてのビール工場を保存、維持

――当時このレンガの建物を壊すという提案は一度もなかったのですか?

瀬恒さん 製麦所としての役割を終えた時に、ここをどうするのかという議論はあったと聞いていますが、その中には、取り壊して何か新しいものを造るという選択肢は当然あったと思います。ですが、当時の経営幹部が残そうと決めたと聞いております。

――それは見事なご判断ですよね。今となっては、東区のシンボルというか、北海道を代表する観光地になっています。

瀬恒さん 本当にそうですね。先見の明といいますか。工場(製麦所)として使っているときは付加価値を生むんですよ。だから固定費をかけて運営する意味がありますが、それをやめてしまうと維持をする費用だけがかかってくる。普通に考えて、経済合理性だけでいくと、もう壊しちゃえ、やめて他のものにしてしまえ、という判断もあると思います。それでも当時の経営陣は残すという判断をしたということですね。

夜はライトアップして、一層素敵な姿を見せる
夜はライトアップして、一層素敵な姿を見せる

――レンガの外観は他にはない素敵な建物ですよね。レンガにサッポロビールの星のロゴが入って、レトロな雰囲気の中にポップさも感じます。

瀬恒さん 現存するビールメーカーのなかでもサッポロビールは、日本人が初めて作ったビール会社なんですね。もともとは北海道開拓使という国の事業の中で始まった、国営の事業なんです。ほどなくして民間に払い下げされるわけなんですけど、最初は国の事業だったということもありまして、何かシンボリックな思いが会社の中にあったのではないかと。やっぱり歴史というのは、お金で買えないものですから。昔の方々のおかげで日本のビール事業が軌道に乗ったということです。それを思い出すシンボルとして、残していこうという思いがあったのではないかと思います。

北海道で生まれ、北海道で育ち、今や全国で楽しめるビール会社へ

サッポロビールの歴史を語る瀬恒さん
サッポロビールの歴史を語る瀬恒さん

――サッポロビール園にはどのような施設がありますか。

瀬恒さん サッポロガーデンパークの敷地内には、サッポロビール博物館、サッポロビール園、限定商品も購入できるガーデンショップなどがあります。ビール園は、レンガの開拓使館にケッセルホール、トロンメルホールと2つのホールが、そして別棟にポプラ館、ライラック、ガーデングリルと3つのレストランがあります。まずサッポロビール博物館内にあるビール園総合受付で、お客様に各お食事会場をご案内します。席は、全部合わせて2,000席あります。夏場にはビアガーデンも営業します。

園内マップ
園内マップ

――1年間の来客数とお客様の動向について教えてください。

瀬恒さん 開業から2022年(令和4)度までに、3,500万人以上が来場されています。昨年度は1年間で35万人と多くの方にご利用いただいております。ちなみに一番多いときで、年間に123万人。これは1993(平成5)年に記録しまして、これはビールの総需要が過去最高だった1994(平成6)年に近く、いわゆる20歳以上の人口が最も多かった時代ということが背景にあるかもしれませんね。あとは今のようにサワーやカクテルなどがまだ少なく、お酒といえばビールという時代だったのかもしれません。また、社員旅行や団体旅行が多かった時代ということもあります。お客様の割合としては、だいたい観光6割、地元4割とみています。地元の方が、観光で訪れたご友人を連れてこられるケースも多いです。北海道に来たら、サッポロクラシックやジンギスカンなど北海道でしか味わえない食を楽しんでもらえたらと思います。

レンガの開拓使館にあるケッセルホール
レンガの開拓使館にあるケッセルホール

――「サッポロビール園」のコンセプト、こだわりや特徴を教えてください。

瀬恒さん ここはもともとビール工場に隣接した施設なので、工場で作った出来立てのビールを飲んでいただいて、北海道を代表する料理のジンギスカンと一緒に楽しんでいただくというのがコンセプトでした。今はビール工場が恵庭市に移転しましたが、工場でつくられた新鮮なビールを扱うというコンセプトは創業以来、大きく変えていません。また、ビール園の特徴として、何よりもジンギスカン食べ放題、ビール飲み放題が看板メニューになっています。お客さまにお財布を気にすることなく、思い切り食べて飲んでを楽しんでいただきたいという思いで営業を続けております。

――オススメのメニューや特徴を教えてください。

瀬恒さん 特徴は、美味しいジンギスカンが食べられるということに尽きると思いますが、他のジンギスカン屋さんと違うのは、やはりビールに相当なこだわりがあるということです。サッポロビールの樽生ビールは地域限定品を除き全て取り扱っていて、いろんなビールを飲むことができます。何種類も新鮮なビールが飲める「ビヤホール」としての機能を備えるジンギスカン店は、札幌市内でもそう多くないと思います。したがって、こだわりのビールとこだわりのジンギスカンが味わえるというのが、いちばんの特徴です。特にビールは、「サッポロファイブスター」という、通常ビール園でしか飲めないビールがあるんです。そのビールを目当てに、来る方もいらっしゃいますね。

自慢のラムを部位別に用意
自慢のラムを部位別に用意

――「サッポロファイブスター」というのは、どのようなビールですか。

瀬恒さん ドイツ風のコクのある、プレミアムビールです。もともとサッポロビールには「ヱビスビール」というプレミアムビールがあるのですが、太平洋戦争の時に一旦休売となりまして。戦後、サッポロビールはプレミアムビールをやろうと「サッポロファイブスター」を作ったんです。当時とても人気があったのですが、そんな時「ヱビスビール」を復活発売しようと声が上がり、再発売が決まりました。そうするとプレミアムビールが2つもあるということになり、「サッポロファイブスター」の販売をやめてしまったんですね。だから、幻のビールとなったんです。それを2006(平成18)年に、サッポロビール園の創業40周年を記念した限定商品として復刻発売し、それ以来サッポロビール園のみで販売を続けています。

サッポロビール園でしか味わえない「サッポロファイブスター」
サッポロビール園でしか味わえない「サッポロファイブスター」

札幌中心部は、暮らしに便利なコンパクトシティ

――瀬恒さんは北海道出身ですか?

瀬恒さん いいえ、私は大阪出身です。転勤で札幌に来て2年になります。

――他の地域と比べて、札幌エリアの住みやすさや、環境の魅力を教えてください。

瀬恒さん ひとつは夏場の気候です。クーラーが要らず涼しい気候が続くことです。熱中症の心配も少なく、夏場の過ごしやすさが一番です。冬は確かに寒いのですが、その時期にしか味わえないものもたくさんあって、スキーをはじめとするアクティビティも盛んですし、1年を通してここでしか得られない自然や環境などは充実していると思います。

種類豊富なビール思う存分楽しめる
種類豊富なビール思う存分楽しめる

――住環境についてはどう思われていますでしょうか。

瀬恒さん 適度に都会ですね。特に「札幌」駅を中心とする中央区や東区は、駅や大通り公園も至近距離で歩いていけますし、都心へのアクセスも非常に良いと思います。JRがあり、地下鉄があり、路面電車があり、十分に網羅されています。車があれば遠出もできますが、日常の生活なら車がなくとも、不自由な思いはしないのかなと思います。駅前の周辺にお住まいになる場合には、本当にコンパクトシティを実感できるのではと思います。

札幌中心部を行き交う路面電車
札幌中心部を行き交う路面電車

――コンパクトシティは便利ですよね。

瀬恒さん 実際には札幌市は190万人の都市で、とっても広いんです。地域によっては車がないと不便なところもあり、札幌市全体がコンパクトシティということではありません。札幌の中心地であるこのエリアの中には、徒歩圏内で色々な施設などがあり、便利な場所だと思います。

札幌市の中心地である利便性
札幌市の中心地である利便性

――地下街も充実していますよね。

瀬恒さん 「札幌」駅から繁華街のすすきのまで地下街を通ってそのまま行けます。札幌地下歩行空間「チカホ」ができてから、俄然便利になりましたよね。雪の時も冬も安全で、「札幌」駅から雪に濡れずにすすきのまで行けるというのは、生活面ではとても良いと思いますね。

――東区エリアの中核の役割を担っているサッポロビール園ですが、地域との関わりを教えてください

瀬恒さん サッポロビール園の歴史的な建物を使いながら、未来、次世代に商いを受け継いでいくことが一番の地域貢献だと思っています。商いを続けるということができれば、それがお客さまへの恩返しだと思っています。築100年を超える建物を保存して維持して公開しているところはたくさんあると思うのですが、実際に食のレストランをやるというのは、かなり特殊なことだと思うんですね。

――そうですよね。歴史的建物の中で食事ができるんですよね。

瀬恒さん それを楽しみに、地域の方も観光客の方も来ていただけると思うんですよね。これがもし、商売をやめるということになると、非常に残念に感じられる方も多いのではと。ですので、なんとか古い建物ですが、しっかり維持、管理をしながら、お客さまに少しでも快適な空間を提供し続けて、楽しんでいただけるようにするということが目指すべき姿なのではと思っております。

――特別メニューやイベントは何かありますか?

瀬恒さん 地域貢献というと大げさですが、毎年4月29日は、羊肉(ようにく)の日ということで、その時にはジンギスカン食べ放題を特別価格で提供しています。こちらは毎年地元の方々が楽しみにしてくれているもので、今年も実施しましたが、予約はすぐに完売しまして、たくさんの方にご来場いただきました。

――お店の今後の展望や、街への思い、今後に期待することなどをお聞かせください。

瀬恒さん 今後、サッポロビール園がどのような展開をしていくかは分かりませんが、サッポロビール園自体がどこかの場所に変わるということはないと思いますので、この場所でしっかりとお客さまの期待に応えるということを最優先にやっていきたいと思います。

活性化する創成川イーストの魅力について

札幌中心部も徒歩圏内
札幌中心部も徒歩圏内

――札幌の東区の魅力についてお聞かせください。

瀬恒さん ビール園がある場所は、もともとは不便な場所だったんです。「苗穂」駅も以前は300mも先にありましたから、駅に行くまでは15分、20分もかかる場所でした。他の駅からも遠く、どこに行くのもバスかタクシーという状況だったんですけども、2018(平成30)年に「苗穂」駅が、「札幌」駅方面に約300m移転新築したことによって、アクセスもとても良くなりました。それに加えて、いろんなマンションの開発が行われていて、これは札幌創成川イーストという新たな街づくりなのですが、サッポロビール園がある、創成川の東側にエリアの魅力度、生活のしやすさが向上しているように思えます。そういう意味では、札幌1番の注目のエリアといえる場所です。

――古き良き街並みと新しい建物が両方あります。

瀬恒さん もともと創成川イーストというのは、札幌の開拓の時代からいろんな工場や産業が集積していた場所ですから、やっぱりそういった歴史を感じる地域なんですよね。その中で新しい若い方々がお店を出したりだとか、あるいは新しいマンションなどがどんどんできて、流入人口が増えてきているので、非常に街が活性化しているという印象がありますよね。そういう中で生活をするというのは、楽しいワクワクした生活が過ごせるんじゃないかなと、そう思います。

これから札幌東区に住む人へ

札幌に移住して2年が経過した瀬恒さん
札幌に移住して2年が経過した瀬恒さん

――これから移住される方に、おすすめのスポットがあれば教えてください。

瀬恒さん 個人的には「豊平川」が好きです。ここは札幌というか、北海道を象徴するような場所で、秋には鮭が上り、たまにキツネが出たりとか、鹿が山から降りてきたりするんです。そういった豊かな自然を感じる川なのですが、それが札幌の街の中を流れていて、みんな思い思いに、ジョギングや野球、テニスなどをされている。東京ではなかなか体験できないような場所だと思います。私も休みの日には散歩したり、子供の遊びに付き合ったりするんですけど、非常にこう、清々しい思いにさせられますよね。

――北海道の人柄についてはどうでしょうか。

瀬恒さん 北海道の方は、みんな本当に人の好い方が多く、おおらかな人が多いです。一言でいうとキャパシティが広い。細かいことに気にしないというか、誰とでも公平に接してくれるというか。やはり北海道はみんな明治以降に全国から集まってきて、街が形成されたと言う背景がありますから、基本的にみんな外から入ってきた人が多く、いかにより良く生活していくかを考え、合理的な考え方を大切にしてきたという面もあると思います。

北海道の良さを語る瀬恒さん
北海道の良さを語る瀬恒さん

――それは移住者にとっても安心できることですよね

瀬恒さん 地方にありがちな古くからのしきたりとか、よそ者が入りにくい雰囲気があったりだとか、そういうことは全くないですよ。新しいことに対しても、非常にウェルカムですし、移住者に対してもオープンです。みんな分け隔てなく、細かいことは気にせず、という人が多いです。あとはやはり北海道の雄大な自然や大地が、そのようにさせるのではとも思います。

――最後に、これから札幌東区周辺に住まれる方々に向けてメッセージをお願いします。

瀬恒さん 東区の中でも創成川イーストと呼ばれる活気のあるエリアは発展を続けています。札幌駅にも近く便利な場所ですので、北海道の生活をストレスなく満喫できる場所だと思います。サッポロビール園以外にもたくさんの飲食店もありますし、スーパーやドラッグストアなど生活に便利な施設がたくさんあります。そういった場所で北海道ライフを楽しんでもらえたらと思います。

そして住むことになったら、ぜひサッポロビール園に遊びにきてください。個人的に、ここは札幌、北海道、ひいては日本を象徴する施設のひとつではないかと思っています。だからサッポロビールも、やめたり壊したりしないで、なんとか運営を続けています。昔の北海道の開拓使の歴史を実感できるという場所。ぜひその歴史に触れていただいて、楽しんでいただきたいなと思います。

瀬恒 健太(せつね けんた)さん
瀬恒 健太(せつね けんた)さん

サッポロビール園

瀬恒 健太(せつね けんた)さん
1973(昭和48)年、大阪生まれの50歳。1996(平成8)年にサッポロビール(株)入社、現在はサッポロビール園を運営する株式会社新星苑の取締役経営戦略室長。2年前に札幌に移転し、新生活を始めた。

所在地:北海道札幌市東区北7条東9丁目2-10
営業時間:11:30~21:00 (ラストオーダー 20:40)
定休日:12月31日
※この情報は2023(令和5)年8月時点のものです。